健康寿命の延伸に向け歯科医療からのアプローチ
我が国は、2008年1億2800万人をピークに迎えその後人口減少と少子高齢化に歯止めがかからない状況です。国民の4人に一人が、65歳以上、8人に一人が75歳以上という世界が経験したことのな超高齢社会を迎えています。
さらに、わずか2025年には団塊の世代700万人が75歳以上となり医療・介護の負担が国と国民に重くのしかかる2025年問題が危惧されています。
現在の国民医療費44兆3895億円(2019)であります。65歳以上の前期高齢者(64~74)は、病気をかかえながらも要介護率4%程度 ところが75歳以上の後期高齢者(75~)になると要介護率は30%に達するからです。
要介護にならない後期高齢者の増加、つまり健康寿命の延伸こそが喫緊の課題であり歯科を通じて取り組もうと考えております。
21世紀の内科医療において、癌とともにメタボリックシンドローム(肥満から糖尿病へ)を基盤とした循環器疾患へ(脳卒中・心不全)二大疾患を形成するとかんがえられる。循環器疾患(脳卒中・心不全)の発症に至る生活習慣病の連鎖を把握する考えとしてメタボリックドミノという概念がある。
これは、食生活の偏りや運動不足による生活習慣の不良が、ドミノ倒しの最初のドミノを倒すことになり、肥満(特に内臓肥満) インシュリン抵抗性を引き起こし高血圧、食後高血糖、脂質異常症などの病態が同じ時期に生じてくる。これが、メタボリックシンドロームの階段である。
日本人の死因の原因は、1位 癌、2位 心疾患、3位 脳血管疾患、日本人の死因から見ても上記の事が推察される。
カナダの著名な医師ウィリアム オスラーの名言に「人は血管と共に老いる」という言葉があります。血管を若く保つことが、健康寿命の延伸につながります。
さて、歯科医療ですが虫歯と歯周病が口腔の二大疾患です。歯周病は国民の約80%以上が感染し、推定患者数6000万人ともいわれ歯を喪失する最も大きな原因です。
近年、歯周病が全身疾患の誘因なる報告がなされています。
つまりPeriodontal Medicine(歯周医学)という概念が提唱され歯周病が全身の健康に極めて関係があると強調されるようになりました。
口腔には、未同定の細菌を含め約700種の細菌が歯や歯肉溝に生息しています。1g中に1000億の細菌が検出されます。
歯周病は、深い歯周ポケットからの感染に始まります。ポケット上皮が破壊され潰瘍病変が形成されると、その部位から炎症性サイトカインが産生され、持続的に血行性に全身に波及すると考えられます。
深い歯周ポケット(4~5mm)全ての歯(28本)にあればその面積は、大人の片手の手のひら大きさの潰瘍になるとも言われています。大人の片手の手のひら大きさの潰瘍が存在する場合、全身に何らかの影響があるのは想像に難くありません。
糖尿病と歯周病の間には双方向の関連性があると言われています。すなわち糖尿病が歯周病の進行を促進し、一方こうして重症化した歯周病が逆に糖尿病の病態に負の影響を及ぼすのである。糖尿病患者の90%を占める2型糖尿病は、代表的な生活習慣病と言われ、インスリン抵抗性が亢進し発症します。歯周病に罹患している糖尿病患者に歯周病治療を行うとHbA1cの値が低下する報告がなされました。
歯周病が糖尿病に及ぼす影響として、ポケット上皮が破壊され潰瘍病変から持続的に炎症性サイトカイン・TNF-αにより筋肉細胞や脂肪細胞による糖の取り込みが阻害され、その結果インスリン抵抗性を悪化するためと考えられています。
心血管系疾患において、健康な人に比べ歯周病罹患者は約2~3倍程度心血管系疾患を起こしアテローム性動脈硬化を発症しやすいことが報告されております。アテローム部位からは様々な歯周病原因菌のDNAが検出されています。
上記の事は、ごく一部の例ですが健康を維持する上で口腔の健康が健康寿命の延伸に大いに関係している事がご理解していただければ幸いです。